1. はじめに:それは突然やってくる、「黒字倒産」のような状況
「黒字なのに、キャッシュが残らない」──そんな矛盾した状態が、不動産投資の世界では現実に起こり得ます。
帳簿上はきちんと利益が出ているのに、銀行口座の残高は減っていく。
この状況は、実務上「デッドクロス」と呼ばれ、不動産オーナーが陥りやすい“時間差の落とし穴”として知られています。
今回は、その仕組みを正しく理解し、事前にどう備えておくべきかを整理します。
2. デッドクロスとは何か?──“帳簿”と“現金”のズレで起こる現象
不動産投資では、減価償却という制度によって、お金は出ていかないのに経費として計上できる期間があります。
この期間は、税引き後のキャッシュフローが豊かになりやすく、投資効率も高く見える時期です。
しかし、耐用年数を過ぎて減価償却が終了するとどうなるでしょうか?
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帳簿上の経費が減る
→ 結果として、課税所得が増える
→ 税金が増える
ところが、
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ローンの元利返済
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修繕費などの現金支出
これらは変わらず続きます。
つまり、利益は出ているのに、減価償却の喪失によって課税所得が増加し、流出する税金が増えるために、手元に残るお金が減っていく現象が起こるのです。
これが「デッドクロス」と呼ばれる状態です。
3. デッドクロスが起こるタイミング──築古物件・短期償却物件に要注意
この現象は、特に以下のような投資パターンで起こりやすくなります:
✅ 短期で償却が終わる物件
・築古の木造アパート(耐用年数22年超)などは、4〜5年で償却が終わるケースも
・初期の減価償却効果が高いため、その終了後の負担増が顕著に表れる
✅ 借入比率が高い/返済期間が短いローン
・元金返済が重い構成ほど、減価償却が終わった後のキャッシュ圧迫が激しい
✅ 修繕時期と重なるとダブルパンチに
・外壁補修、屋上防水などが必要になる10年〜15年目と重なると、一気に資金繰りが厳しくなる
4. 事例で見る「数字が残らない収支」
たとえば、築30年のRCマンションを購入し、
建物部分を10年で減価償却していたAさんのケース。
当初は毎年約500万円の減価償却費を計上でき、
帳簿上の所得は抑えられ、税負担も少なく、キャッシュも残っていました。
ところが、10年目を過ぎたとたん、減価償却費がゼロに。
帳簿上の利益がそのまま課税対象となり、所得税と住民税を合わせて毎年150万円以上の負担に。
一方でローンの返済は続き、修繕積立金や突発的な補修も発生。
結果、「黒字なのにお金が足りない」という苦しい状況に直面しました。
5. デッドクロスにどう備えるか?──3つの対策視点
① 出口戦略ありきの前提で購入判断をする
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減価償却が終わる10年後、15年後を見据えて「売却」「建替え」の選択肢を持つ
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最初から“いつ手放すか”を決めておくことで、回避できるリスクは大きい
② “法人活用”によって税制柔軟性を確保する
③ “積立+留保”でキャッシュクッションを作っておく
6. まとめ:減価償却は“得”でもあり、“罠”でもある
減価償却は、不動産投資における強力な節税ツールの一つです。
しかし、足元の恩恵だけにとらわれて、減価償却に頼りきったキャッシュフロー設計をしてしまうと、
減価償却が終わった途端に“収支構造が崩れる”という事態にもなりかねません。
デッドクロスは、「収支の時間差」という不動産特有のリスクを象徴する現象です。
帳簿が読めるようになった今だからこそ、“数字の裏にある未来”を読む力を身につけておきましょう。
次回は、この延長線上にあるテーマ──
「法人化はいつ・なぜ考えるべきか」について、戦略的な視点から整理していきます。
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