1. はじめに:「このまま個人で持ち続けて大丈夫だろうか?」
物件をいくつか保有して、家賃収入も安定してきた。
収支の見通しが立ち始めると、次に浮かんでくるのがこんな問いです。
「このまま個人名義で不動産を持ち続けていいのだろうか?」
「もっと節税できる方法があるのでは?」
そのときに多くの人が意識し始めるのが、「法人化」という選択肢。
いわゆる「資産管理会社」の設立です。
ただし、法人化は誰にでもすぐメリットがあるわけではありません。
“どんなフェーズの人が、どういう理由で法人化を考えるべきか”──今回はその判断軸を整理していきます。
2. 不動産所得は「総合課税」──まずは個人の課税構造を理解しよう
不動産賃貸で得られる利益(=不動産所得)は、個人の所得税計算において「総合課税」扱いとなります。
つまり、給与所得や事業所得、雑所得など他の所得と合算されたうえで、
課税所得の額に応じて税率が段階的に上がる「累進課税方式」で課税されるのです。
※所得税算出の基本的な知識も富裕層になるための基礎知識です。別の機会に取り上げたいと思います。
課税所得 | 所得税率 | 住民税(概算) | 合計実効税率 |
---|---|---|---|
〜195万円 | 5% | 10% | 約15% |
330〜695万円 | 20% | 10% | 約30% |
900万円〜 | 33% | 10% | 約43% |
1,800万円超 | 40〜45% | 10% | 最大55%近く |
つまり、規模が大きくなって利益が増えるほど、税率も一気に跳ね上がるのが個人課税の特徴です。
一定の控除(基礎控除や青色申告特別控除など)があるとはいえ、
高所得層にとっては「収入が増える=そのまま重い課税負担がのしかかる」という構造になります。
3. 法人化とは何か?──“もう一つの財布”を作るイメージ
法人化とは、個人ではなく“法人”という別人格に、不動産を所有させる仕組みです。
法人は、個人とは完全に分離された存在であり、
収入・支出・税金の計算も、すべて法人として行います。
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中小法人の場合、年間800万円までの所得部分は約23%前後、それを超える部分は30%強の実効税率(※1)となるのが一般的
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一律課税であるため、個人よりも税率が低く抑えられるケースが増える
※1 「法人税は一律だから節税になる」というイメージが先行しがちですが、実際には法人税だけでなく、地方法人税、法人住民税、事業税なども加味された“実効税率”で見る必要があります。
法人は、いわば「もう一つの財布」を持つようなもの。
この新たな財布を持つことで、経費の使い方、資金のプール方法、次世代への引き継ぎ方など、戦略の幅が大きく広がるのです。
4. 法人化の主なメリット
✅ 税率面の優位性
累進課税の個人に比べ、一定の法人税率での課税になるため、利益が大きくなるほど有利
✅ 経費として計上できる範囲の拡張
役員報酬や旅費交通費、福利厚生費など、法人ならではの支出項目が増える
✅ 複数物件間の損益通算
法人なら、複数の不動産の赤字・黒字をまとめて調整できる(個人ではできない)
✅ 相続・事業承継対策のしやすさ
株式として持つため、分割・評価・移転が柔軟にできる
5. 法人化の主なデメリット
❌ 設立・維持コストがかかる
法人設立登記費用、顧問税理士費用、決算書作成コストなど
❌ 融資ハードルが高まることも
個人では属性(年収・職歴)評価が中心だが、法人では決算書や事業計画書が求められる
❌ 個人特有の節税メリットが使えない
たとえば、売却時の3,000万円控除や住宅ローン控除、相続時の小規模宅地の特例などは個人にしか使えない
6. 法人化を考える3つの判断軸
法人化は、思いつきや節税目的だけで進めるものではありません。
以下のいずれかに該当する場合、「次のステージ」としての検討価値が出てきます。
① 課税所得が年間900万円を超えてきた
→ 累進課税の負担感が一気に高まるライン。法人の一律課税との“逆転”が見え始める
② 保有期間が長期にわたり、今後も拡大を検討している
→ 一定規模以上になると、法人のほうが運用・管理・融資の観点から合理的になる
③ 相続や資産承継を見据えている
→ 株式による所有に切り替えることで、将来の“贈与”や“分割”が計画しやすくなる
7. 実例紹介:Aさんが法人化に踏み切った理由
年収1,200万円のサラリーマンAさん。
築古のレジ物件を複数棟所有し、不動産所得も年間800万円を超えていました。
当初は減価償却で課税所得を圧縮していましたが、
年数の経過とともに税負担が急増。キャッシュフローも圧迫され始めたころ、法人化を検討。
法人を設立し、新たに取得する物件は法人で保有。
役員報酬や損益通算を活かしつつ、数年かけて保有スキームを法人中心にシフトさせていきました。
8. まとめ:規模が大きくなるほど、“持ち方”の戦略が効いてくる
法人化は、単なる節税テクニックではありません。
「資産をどう保有し、どう活かし、どう引き継ぐか」という中長期的な視点で考えるべき、“投資の器”の選択です。
投資の規模や収支状況、将来の見通しによって、「最適な形」は変わります。
その意味で、法人化は“成果を最大化するためのスキーム”といえるでしょう。
次回は、この流れの応用編となるテーマ──
「建物のみを個人から法人へ権利移転する節税スキーム」について、今回の法人化に関連してご紹介します。
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